行政法の学習は、まず法律による行政原理から導入して、行政作用の主要類型としての行政行為の効力を序盤に学ぶ。何度か学習を重ねてみると、この序盤の講学上の概念が、行政法でその後に学習する内容に密接した関係を持つことに気づく。この回では、そういった行政原理や行政行為の効力と各法典や別の概念との関連性をまとめたい。
行政原理は法律優位、法律留保、そして法律の専権的創造力の原則がある。三権分立の考えから当然に導きだされる原理だ。
法律の優位の原則とは、いかなる行政活動も法律に反してはならないというもの。法律の留保の原則とは、行政活動には法律の根拠を必要とするというものである。
法律の留保の原則には、どのような場合に法律の根拠を求められるかについて、通説では権利を侵害する場合に、つまり侵害留保説を採る。 行政法の学習において法律の根拠が不要とされるものには、行政庁の権限の授権代理、取消権や撤回権などである。行政庁の権限の授権であるが、権限を一部委任(全部委任はできない)する場合と違い、権利義務の帰属主体は変わらず被代理庁にあり、権限の移動があるわけではないため、法律の根拠を要しない。逆を言えば、権限の移動がある一部委任には法律の根拠が必要となるということである。また、法定代理については、授権代理や一部委任と異なり、権限の全てを代理執行できるが、"法定"の文字通り、当然に法の根拠を要する。
瑕疵ある行政行為を取消すことは国民にとって望ましいことなので、法律の留保を要しない。因みに少し先取りになるが、取消すことの出来ない行政行為には授益的行政行為と争訟裁断行為があるが、うち争訟裁断行為については不可変更力という行政行為の効力が働くため、取消しは出来ないとされる。不可変更力は紛争裁断作用にのみ認められる特殊な効力である。さて、行政行為の効力には不可変更力の他に、公定力、不可争力、拘束力、自力執行力がある。拘束力は、行政行為が相手方及び行政庁を拘束するというもので特筆すべきことはない。自力執行力は「行政行為によって命じられた義務を国民が履行しない場合に、裁判判決を得ることなく、行政庁自ら強制的に行政行為の内容を実現できる効力」である。これは、行政法の強制措置の学習分野につながり、特に行政強制の内容とほぼ重複する。根拠法令としては行政代執行法、砂防法などがある。
では公定力とはどのような効力かというと、「行政行為に法規違反等の瑕疵があっても、重大かつ明白な違反でない限り、権限ある機関が正式に取消すまでは、有効として通用する」というものである。瑕疵が重大かつ明白である場合は、取消すまでもなく当然に無効である。
「権限ある機関が取消すまでは」という文言には、私的救済の禁止という民法の原則が底通していると思う。瑕疵ある行政行為に対して国民が不満を持つ場合は、権限ある機関に正式に取消してもらう必要があるが、その手続きを規定しているのが、行政不服審査法や行政事件訴訟法などの行政救済法である。また、行政救済法には事前救済を定める法として行政手続法が存在するが、公定力はあくまで瑕疵ある行政行為が行われた時にはじめて生じる効力であることを考えると、当然直接関係する法律ではないということになる。
行政事件訴訟法には、「取消訴訟は処分又は裁決があったことを知った時から6ヶ月を経過したときは提起することができない(14条1項前段)」という規定があるが、このように「行政行為により国民の権利が侵害された場合であっても、法定の期間が経過すると、争訟を提起して行政行為の取消しによる救済を求めることが出来なくなる効力を不可争力という」。
最後に、前後してしまう形になるが、行政原理の法律の専権的法規創造力の原則は、国民を規律する法規、を創造する力は法律に独占されるという概念というが、三権分立により求められる原理だ。しかし、状況によっては、即応性にかける、専門的技術的側面から行政が規範を制定するに相当する場面もあり、そういった場合に、法律の専権的法規創造力の例外として、行政立法という、行政による立法権が認められる。具体的には省令などが挙げられる。
Amazon.co.jpアソシエイト
PR